『 』
最愛の妹をその手に抱き徐々に消えていく両腕の重みを感じながら、少女はほんの一滴の涙もこぼすことはなかった。
頭の中は真っ白で、走馬灯すら妹との記憶を見せてはくれない。
ただ、胸に空いたあまりにも大きすぎる空白が、自分を自分たらしめていた存在が失われたことを告げていた。
あぁ、私は、なんということをしてしまったのか。
だってあの子は最後の一瞬に、本当に嬉しそうに、どうしようもなく安堵したように笑ったのだ。
『これでやっと終われるのか』
と、最愛の姉から刃を向けられたことを、心の底から望んでいたように……。
私は本当に、なんということを――なんておぞましい世界に、この子を独り残してしまったのか。
終幕を自ら切望するほどの苦痛を、あの子が背負えるはずはなかったのに。それは、私が背負うべきものだったのに。
霞がかかった頭では、後悔も、悲嘆も、絶望も、怒りも、全てが瞬きの内に遠のいてしまう。
最後に残ったものは、『守らなくては』という焦燥のみ。
何を守るのか、何を守りたいのかもわからないまま、少女は鉛のように重い体を引き摺って歩みだした。