序章 第三幕

 序章 第三幕


 息を切らして帰り着くと、家の中は上を下への大騒ぎだった。普段ならこの時間は使用人たちの仕事も落ち着いて穏やかな時間が流れているはずなのに、今日は帰宅した私にも気づかない有様である。
(……でも、なんか……思ってたのと違うな?)
 目の前でパタパタと駆けていく彼らの表情がどう見ても暗いものには見えず、ここまで嫌な予感に突き動かされてきた私は少し面食らってしまった。
 どうしてみんなあんなに嬉しそうなの……?
「あら、麗青れいしょう様!お早いお戻りですね。奥様が華の間でお待ちですよ。さぁお早く!」
「えっ、あの?!うわっ!」
 ようやく一人の女中がこちらに気づいたかと思えば、なぜだか満面の笑みで手を取られぐいぐい引っ張られる。というかなんで奥様?!
「あ、あのちょっと待ってください……!」
「どうされました?」
 私の戸惑いも意に介さず、女中は足早に進んでいく。
「私、何が何だかわからないのですが!暘俊ようしゅん様はどちらにいらっしゃるのですか?」
 不安に思いながらも尋ねると、女中は足を止めず振り向いた。その表情は変わらず明るい。
「あぁ、申し訳ありませんご説明もせずに。私共にも詳しいことは分からないのですが、何やら暘俊様が龍王様より御下命を受けたとか。これほど名誉なことはございませんねぇ!」
 ……名誉……?
 そっか、そう、だよね。確かに普通に考えれば、暘俊が龍王様のお目に留まったということだもの。お顔を拝謁できるだけでも誉れ高いと言われているのに、直接お声をかけられるなんてそれこそ言葉にできないような名誉だ。役人を志す者の多くがそれを目指していると言っても過言ではない。
「それで、暘俊様は今どこに?」
「今は当主様の私室でお話をされていらっしゃいますよ。麗青様は奥様がお呼びですから、まずは華の間へお立ち寄りくださいな」
 話しながらも女中は立ち止まることなく私の手を引いていく。本当はまず暘俊に会いたかったのだけど、断るわけにはいかなそうだ。
 
 そうこうするうちに華の間へ到着した。女中が恭しく礼をして立ち去るのを見送って、部屋へ声をかける。
「奥様、麗青が参りました。失礼いたします」
「どうぞ、お入りなさいな。おかえりなさい麗青。説明もなく呼び立ててしまってごめんなさいね」
「あ、いえ……ただいま戻りました。お待たせしてしまって申し訳ありません。」
 ひとまず挨拶をすませ顔を上げれば、きらびやかな衣装に囲まれて奥様は花のように微笑んでいた。
(……わぁ、綺麗な桃色)
 その笑顔は満開の桜のように穏やかでありながらも喜びに満ちていて、普段の彼女とは随分印象が違って見えた。清流のような清らかな美しさは身を潜め、少女のような愛らしさが顔をのぞかせている。
 そう感じるのはきっとこの部屋の雰囲気のせいもあるのだろう。華の間は護家奥方が管理する衣裳部屋で、美しい衣や反物、装飾品などが所狭しと並べられている。それら衣装のきらめきが、奥様の感情をより際立たせているようだった。
 私が落ち着きなくあたりを見回していると、くすくすと小さく笑う気配がした。
「そういえば、貴方はあまりこの部屋に入ったことはありませんでしたね。何度言っても子供服のままでいいときかなかったから、てっきりこういうものに興味がないのかと思っていましたけど……その顔を見ると、あながちそういうわけではないのかしら。女の子ですものね」
 気分が高揚しているのか、いつもより口数も多い。
 彼女がここまではしゃいでいるのは、きっと先程の女中と同じで暘俊が龍王様から御下命を受けたことに起因しているんだろう。
「あの、それで……ご用事とはなんでしょうか?」
「あぁ、ごめんなさい。余計な話をして時間を無駄にするところでした。本題に入りましょうか」
 奥様に促され、窓際に置かれた椅子に座る。小さな机を挟んで向かいに奥様が腰かけ、落ち着いたところで彼女は改めて口を開いた。
「実は、今回龍王様から御下命を賜ったのは暘俊だけではありません。貴方も龍王様よりご指名を受けたのですよ、麗青」
「……え?」
 何を言われたのか理解ができず、思考が停止した。
 私が……龍王様から、ご指名を受けた?
「……えっあの、でも!私は本日龍王様からお呼び出しを受けませんでしたが……。それに私は養子の身で暘俊様と違って護家ごけの血を継いでいるわけでも、特別な能力があるわけでもありませんし、龍王様のお目に留まるような者であるはずがありません!何かの……間違いでは、ないでしょうか……?」
 混乱してまくし立てる私の言葉を、奥様はただ静かに聞いていた。きっと何か気に障ることを言ったのだろうに、彼女は纏う色を少しずつ変化させながらも決して私を窘めることはしなかった。
「そうね。突然あのようなことを言われても、驚くだけでしょう。けれど決して、聞き間違いでも、勘違いでもありません。龍王様は確かに暘俊と貴方をご指名されたのです。……理由は、わたくしにもわかりませんけれど」
 あまりに想定外の事態に、思考が止まりかける。
 なるほど、それで奥様はこんなにも喜びに満ちていたのだ。自分の子が若くしてこの世界の『神』に指名された上、それが一人ならず二人となればその喜びと驚きは計り知れないだろう。
「……」
 けれど私はそんな喜ばしい言葉を聞いても、どうしても気分が上がらなかった。
 過去私を拾った恩人が小さく口にした言葉が、喜びの感情を塗りつぶすように脳裏にこびりついて離れない。
 ――『龍王様には気をつけなさい』。彼女は確かに、そう口にしたのだ。
「麗青?どうかしたのですか。顔色が優れないけれど、気分でも悪いのかしら?」
「!あ、いえ……。決してそのようなことはございませんので、お気になさらないでください」
「そう?それなら話を進めますけれど……今日この部屋に呼んだのは、貴方に衣を仕立てるためなの」
 彼女は柔らかく微笑んで言った。
「貴方が龍王様と直接お会いすることを当主様は許可しませんでしたけど、それでも龍王様より賜った大切な任を子供服のままで遂行することなど護家の沽券に関わります。それは、理解できますね」
「……はい」
「ひとまず日が落ちきるまでに寸法を測って、布地を決めるところまで済ませてしまいましょう。それが終わってしまえば貴方の役目は終わりますから。その頃には当主様と暘俊のお話も終わっているでしょうし、知りたいことがあったらそのあと二人を訪ねなさい」
 問答を許さない奥様の口調に、諦めて頷く。
 ……まぁ、美しい衣も嫌いなわけじゃないし。ただちょっと、気疲れしそうだなってくらいだし。なんて諦めるための言い訳を探しつつ、席を立った奥様を追ったのだった。

 *

 すっかり日が落ちて屋敷内の慌ただしさも去ったころ。
 私はようやく奥様から解放され、自室に戻ってきていた。慣れない採寸に翻弄されたと思えば次々と布をとっかえひっかえ当てられて、体力より精神力が消耗した気がする。
 ぼふっと倒れ込むように寝台に沈めば、このまま眠ってしまいたい思うほどの心地よさが思考を包み込んだ。窓の外から遠く聞こえる鳥の声と髪に残った華の間の香りに瞼が重くなる。いけない、まだしっかりしていないと……。

「麗青様」

 落ちかけた意識が覚醒する。
 ……来た。当主様からの呼び出しだ。
 返事もそこそこに慌てて身支度を整え扉を開けば、そこには身の丈六尺六寸はあろうかという巨体の狐が、黒曜石のような毛並みを手燭の明かりに煌めかせこちらを見下ろしていた。
 そこかしこで見かけるお狐様たちにはない圧倒的な威圧感に、格の違いを思い知らされる。
「お待たせいたしました。黒狐こっこ様」
「ほほ、待ってなどおりませんとも。夕食の前に話をしたいと当主が仰せですが、よろしいか」
「はい、もちろんでございます。どうぞお連れください」

 当主様は執務室で私を待っていた。顔色は優れず、眉間にしわが刻まれている。
 ふと、いつもなら常に傍らにあるはずの神の気配が薄いことに気づいた。そういえば当主様は普段から私と顔を合わせることを避けているのに、こうして部屋に二人きりというのも変な気分だ。てっきり暘俊がいるかと思っていたけれど、彼の姿は見当たらなかった。
 ……なんだか少し、緊張する。
「あぁ、来たな。話があるから、そこの椅子に掛けなさい」
「はい。失礼いたします」
えい様は出かけていらっしゃるから安心していい。暘俊は少し動揺しているようだから下がらせたが……いてもらった方がよかったな」
 ぎこちない様子の私を見て当主様は苦笑いをしてみせた。
 ……この方が笑ったところを、初めて見た気がする。いつも厳しい表情をされているからてっきりそれが普通なのかと思っていたけれど、彼の色はどこかいつもより柔らかい。
「すまないね、急に呼び立ててしまって。元々例の話は暘俊を含め家の者がいる場で話そうと思っていたんだが、予想外のことがあったから急遽二人きりで話すことにしたんだ」
「予想外のこと……ですか?」
「あぁ。……影様が離席していると言っただろう。君は、あの方に目を付けられないようにした方が良い。二人きりになることは無論、会話もできるだけ避けなさい」
「はぁ……承知いたしました」
 理由はわからないけれど、当主様の言いつけを守らないという選択肢はない。
 私が素直に頷くのを見届けて、彼は先程までの柔らかい空気を切り捨てるように軽く机を指で叩くとガラリと雰囲気を変えた。

「さて、あまり時間がないので早速本題に入るが、本日龍王様より暘俊とお前に勅令が下ったことは聞いているな」
「はい。具体的な内容は存じませんが、その事実は把握しております」
「よろしい。では、その内容だが……」
 何やら躊躇するようなその間に、緊張で手が濡れた。私が無言で先を待つ間にも、当主様の色は目まぐるしく変わっている。その色はまるで、不安と緊張と、心配に揺れ動いているようだった。
「……神山しんざんに封じられた女神の、討伐。それが今回お前たちに下された勅令だ」
「女神の、討伐……?」
 神山というのは、都からはるか西方にある巨大な霊山だ。ずっと昔、龍王様が天郷てんきょうを創造成されてすぐのころに悪しき女神を封じられたとか。その封の影響で神山は『目』が特に良い者にしか見えない神域と言われている。
「確かお前は、あの山が見えるのだったな」
「はい。しっかりと」
「ならば良い。暘俊の目は当てにならない可能性が高いので、道中はお前が先導するように」
「承りました。……あの……一つ、質問してもよろしいでしょうか」
 おずおずと尋ねれば、あらかじめ予想していたのだろう。当主様はあっさりと会話の中断を許された。
「その……龍王様は、何故私と暘俊様に彼の女神の討伐などという困難な任をご命じになったのでしょう。討伐、ともなれば武力行使が必要となりましょうから、南護なんごの武人様か一級神士官じんしかんの方々が適任と考えます。……私のような小娘が考え付くことに、龍王様が至らぬはずはないと思うのですが……」
 私の疑問に彼はふむ、と顎をさすった。
 勅令の内容を聞けば誰もが至る疑問だろう。何しろ今回討伐を言い渡された『女神』というのは、遥か昔に龍王様自ら討伐を諦め封じられた、凶悪な邪神なのだ。そんなものに成人もしていないただの学生である私と暘俊が太刀打ちできるとは誰一人思わないだろう。無論私も、そんな奇跡を信じられるほど能天気ではない。
 何かを考えるような間にじっとりと汗を握りこんでいると、当主様は困ったように眉をしかめると腕を組み口を開いた。

「妙な質問をするが……お前、近頃夢を見たか」
 
「夢……ですか?」
「そうだ。……私も龍王様から勅令が下された場にいたのだが、お前と同じように奇妙に思えて尋ねたのだ。すると龍王様は一言、『……夢を、見ただろう?』とおっしゃられてな」
「はぁ……」
「暘俊にも尋ねたが、あれは心当たりがないらしい。お前はどうだ」
 探るような視線に改めて記憶を手繰り寄せる。
 夢なんて、最近見ただろうか。生憎と、思い当たる節がない。……ない、んだけど。
(夢……夢、か)
 何故か霧がかかったかのように記憶が曖昧に感じる。気のせいだと目を反らすのがどうにも憚られるこの感じは、何だろう。
 ……何か、記憶に引っ掛かりを覚えるような。そう、何かとても、嫌な――。
「――っ?!!」
 突然、何の前触れもなく両目に激痛が走った。感じたことのない焼けるような痛みが頭の中の霧を切り裂くように晴らしていく。
(そう、だ……なんで忘れてたんだろう)
「おい、大丈夫か?!」
 突然椅子から転げ落ちるように目を抑えて蹲った私を見て、驚きと焦りの滲んだ声が降ってきた。
 それに答える余裕もなく私は口を開く。零れたそれは独り言のようにか細く、震えた声だった。
「当主様……私、確かに今朝夢を見ました。あれはきっと、普通の夢じゃないと思います。だって……」
 言いながら無意識に右腕を抑える。
 ……だって、私はあの『声』を覚えている。私の目は、燃えるような悲しみと悔恨の色を覚えている。切実で、生々しくて、さっきまで忘れていたのが嘘のように脳裏にこびりついて離れない感情が嘘なはずない。作り物の夢のはず、ない。
 浅い呼吸を繰り返して、何とかその記憶を振りほどく。
 いけない。あれは、ただの人間が共感して正気でいられるようなものじゃない。
 ぎゅっと目をつぶって感情の波に耐えていれば、不意に両肩を大きな手が包んだ。
 
「――落ち着きなさい、麗青」
 
 見上げれば、数分前と同じ、柔らかくて頼もしい父親の顔をした当主様の顔があった。
 彼の顔が歪んで見えて、初めて自分が泣いていることに気づく。
「あ……ご、ごめんなさ」
「いやいい。少し、気分が落ち着くまでこのまま話をしようか」
 ポンポンとあやすように頭に置かれる手にされるがままになって、私は静かに当主様の話を聞いていた。
「その夢の内容を具体的に聞く気はないから、安心しなさい。……君はきっと、その『目』で何かを見てしまったんだろうな。君の目は、特別なんだろう?」
「そ、れは」
「あぁ、答えなくていい。おおよその事情は義姉上から聞いているし、君の事情に介入する気もない。私が言いたいのは、おそらく君が見た『夢』は、只人では記憶に残すことすらできない類のものだったんだろうということだ」
 言われた意味が分からず黙っている私に気分を害した様子もなく、彼は静かに言葉を継いだ。
「私が『夢を見たか』と尋ねたとき、明らかに君はそれを記憶に留めていないように見えた。しかし目の痛みにつられるようにして思い出したのだろう?ならば、君の記憶を引き出したのはおそらくその目だ」
 あまりに突然の痛みで気に留められなかったけれど、そう言われると確かにそんな流れだったように思う。私の目が、常人とは少し異なるのも事実だった。
(この目のせいで、私はあの夢を思い出せた……。それなら、暘俊も覚えていないだけで見たってことなのかな。あの、嫌な夢)
 もしそうなら、彼の記憶にそれが残っていなくてよかった。暘俊はとても優しいから、きっと私以上に傷つくもの。今まで沢山傷ついてきて、これからも傷つき続けるだろう彼が必要以上に傷を負う必要はない。
(……でも、どうしようもなく嫌な夢だったけれど、本当に内容を当主様に報告しなくてもいいのかな)
 だってきっとこれは、龍王様から承った命にとても深く関わるもの。それを報告もせず、私たちは本当にこの困難極まりない任を全うできるのかな。当主様はきっと私を気遣ってくれたのだろうけど、必要な情報なのは確かなわけだし……。
 やっぱり、伝えた方がいい、よね。
「……あ、あの、当主様。私――」

「あれぇ?廣濬こうしゅんが子供を泣かせてる」

 ――音も、匂いも、気配すらもなく。
 まるで冷たい手に首筋をなぞられたような悪寒が、一瞬で背筋を這い上がった。
「こんばんは。廣濬がずっと当からキミを遠ざけるものだから、話をするのは初めてだねぇ、麗青」
 まるで体が凍り付いてしまったかのように動かない。当主様を押しのけて目の前に突如ドロリと表れた『それ』は紛れもなく最高位の神の一柱であるけれど、身の内に何か酷く恐ろしいものがあるような気がした。
「……うん?あれぇキミ、なーんかおかしいと思ったらその目」
 彼の言葉を遮るように、私の肩がぐっと後ろに押された。一歩二歩と後ずされば、あろうことか当主様が漆黒の彼をするりと通り抜け私の前に立つ。
「これは、おかえりなさいませ。影様」
「ちょっとちょっと、突然通り抜けるなんてびっくりするじゃない!当を何だと思ってるのさ」
「大変失礼いたしました。決して我が家の大切な|家神《かしん》様をないがしろにしたわけではないのです。当主たる私が貴方を一番に迎えるべきかと思い、焦ってしまいました。どうぞお許しください」
「えー、うーん。じゃあ一瓶で許してあげる」
「承知いたしました」
 笑顔で言葉を交わしながら、当主様は私を軽く押す。……もしかして、庇ってくれてる……?
「お前は用が済んだから下がりなさい。あぁ、黒狐様に夕食に少し遅れるとお伝えしてくれ」
「!……はい。それでは、失礼いたします」
 いかにも邪魔だというように手を振る当主様に半ば追い出される形で執務室を出る。
 扉を閉めれば、夜の暗闇が広がっていた。
 わずかに差し込む月明りを頼りに今更のように震えはじめた体を抱きしめ、私は振り返らず自室へ走ったのだった。

 
 少女が立ち去った執務室には、異様とも言える空気が漂っていた。
 男の血が入った小瓶の栓を放り捨て、それは口を開く。
「ねぇ廣濬。あれ、分かってて隠してた?」
「……さて、何のことをおっしゃっているのか分かりかねますが……」
「なぁに誤魔化したいの?珍しいねぇ。……さっきの子供、石の子だよねぇあの目。嫌だなぁ危ないなぁ」
 男は空になった小瓶を受け取り、慌てた風もなく窓の外を見やった。
「あれ、きっと当の中身も見たんじゃない?この一瞬でさぁ、なんか見られた感じしたもん。まぁ別に当は気にしないけど」
「……報告なされますか。龍王様に」
「ん?えぇどうしようかなー。あれ、龍王に見つかったら結構酷いことになるでしょぉ多分。龍王にとっては一番の脅威になりうるもんねぇ。狐が黙ってるのは面白がってるからだよねぇ絶対」
 結論を出さない回答に、なおも男は沈黙を貫く。まるで底知れぬ神の心の内をはかるような間に愉快そうにそれは笑って、気にも留めずに言葉を継いだ。
「それにしてもあんな危ないもの拾ってくるなんて、龍王に喧嘩でも売るつもりなのかなぁ?いいよぉ、それなら当も協力するよ」
「はは、まさか。ただの人の子が龍王様に盾突こうなどと、考えるだけで肝が縮みますとも」
「ふぅんつまんないの」
「それに、あれを拾ってきたのは私ではありません」
「ん?……あぁ、そうだった。確か歴のとこの秘蔵っ子だっけ?馬鹿なことするなぁ面白いなぁ」
「……えぇ、本当に」
「ま、いいよ。今報告したってつまんないし。報告は当の仕事だけど、全部をありのまま報告するなんて契約はしてないし?」
「……」
「きっとねぇ、あの目がもう少し育ったらさ。もっと面白いと思うんだよねぇ」
「そうですか」
「うん。だから報告はその時まで待っててあげるよ。……あぁ、あれが龍王を殺せるぐらい、育ってくれたらいいなぁ!」